音楽が楽しいと思う気持ちがちょっと戻った話















とうとう2020年になって半年が経った。

年明け1月末から「なんかやばいウイルス

が発生している」くらいの認識で始まり、

それからあれよあれよと世界中に広まり、
それまでの日常を180度ひっくり返した
コロナ。



ありとあらゆる業種が完全に、もしくは

最小限にとどめて活動を停止した。

もちろんクラシックも含めた音楽業界も

例外ではなかった。


さらに言えば、僕は1月に修士論文を

書き上げた後、月末に大学からの帰宅

途中に自転車で自損事故を起こし、初めて

針を縫う大怪我と管楽器奏者の命である

前歯の一部を欠損していた。




ただでさえ前途多難すぎる演奏家として

のフリーランスへの道。

その上こんな社会情勢になってこんな

怪我をしてしまった僕を指導教員の先生も

心配してくださって、音楽関係の一般職
の話を持ちかけてくださったこともあった。
正直、修了前かなりの期間悩み続けた。
気持ちが揺れてしまいそうになった日
もあった。



だけどずっと心の中にそっとしまっている

言葉、

「やらない後悔より、やる後悔」

が、最終的にハンデ負いまくりながらも

フリーのホルン吹きでいくことを選ばせた。
一度横に置いたことを激しく後悔するのは
目に見えていたし、ちょうどこの時期から
本番という本番、仕事という仕事は
なくなっていってたのでいいリハビリ期間
にできるだろうと思った。

幸い修了前にやってみたいと思っていた

事務のバイトの募集を見つけ、働くアテを

得た状態で修了の日を迎えることができた。


修了証書一式は卒業式の日に佐川急便で
送られてきた。コロナを前に混乱する
社会の波に呑まれ、実感が湧かなさ過ぎた
修了だった。





いざ修了してみると、在学中から住んでる

下宿は楽器演奏不可だし、練習に使えそう

な近所の安価なカラオケや公民館は全て

休業、大学も認められた在学生と教員以外

入構禁止となって卒業生がお邪魔するなんて
もっての他という状態で、とてもじゃない
けど満足に練習できる環境じゃなかった。
卒業前もある程度の制限が加わることは
考慮にいれていたが、ここまでだなんて
誰が予想できただろうか。

それに加えて新しく始めたバイトに早く

慣れないとという気持ちと、怪我で

卒業前にほとんどバイトできなかったので
とにかくお金が要る、という気持ちから
ガンガンシフトを入れ、ありがたいことに
休業にはならなかったのでひたすら働いた。
正直4・5月はホルンから心が
少し離れていたことを認める。



さらに個人的な原因で言うと、長らく

愛用していたイヤホンを誤って洗濯
してしまい、片耳が絶望的になって
しまった。音質にはこだわる派で、その
壊したイヤホンも中堅ではあるが安くない
値段だったので相当ショックで、けれど同じ
価格帯のものを買う余裕なんてあるわけも
なく、仕方なくコンビニで買ったイヤホンで
慰めのようにごまかしていたのだが、やはり
脳や感覚は正直で違和感を感じずには
いられず、そのうち「音楽を聴く」ことを
止めてしまった。





そんな一方で社会はというと、コロナに

負けるものかとオンラインでのあれこれ

が展開していく。

音楽、ことクラシックもリモート
アンサンブルと題してオンラインでの
合奏をしてその動画を公開したり、
一人での多重録音動画がさかんに発表
されるようになった。


でも自分は顔面と歯の怪我という自業自得

ではあるがハンデを背負っていたので、

すぐにその波に乗ることができなかった。

本当はやりたいと思っているネタが

いくつもあった。自分で編曲して楽譜まで

用意していた曲もある。けれど、気にせず

楽器を吹ける場所と時間が合致する

タイミングは一向に来ず、消音ミュートを
付けてもはやリハビリと呼んでいいのか
怪しいレベルでビビりながら吹くのが
精一杯の日々。そんなんでモチベーションが
上がるわけもなく、次に楽器が吹けた時は
また歯と唇を慣らすための“作業”から始まる。
それで多重録音をするなんて夢のまた夢。



まわりの音楽家やプロオケの方々は着々と

リモート演奏の環境を作り上げ、
乗り越えていこう!という、音楽を止めない
雰囲気を作っていた。実際そのリモート動画
を見てすごいと感動したこともあったが、
反面自分がまわりのそういった企画にスッと
参加できないことにフラストレーションが

溜まるようになっていった。

とうとう、音楽を聴くこと、ホルンを吹く

ことから気持ちが遠ざかってしまった。

全く吹きたくない、聴きたくないというわけ

ではなかったが、この間にホルンを吹くのは

過去の自分を亡き者にしないための現状維持

でやっているにすぎないといっても過言では
ないくらい冷めたものとなっていた。

音楽に対する自身の関心が止まってしまって

いた。




6月半ばになって、近所のカラオケが営業を

再開した。開店時間とバイトの出勤時間の
関係から平日に練習できるのはたった1時間
だけだったが、久しぶりに何も考えずに
好きな音量を出して吹けたことはとても
嬉しかった。といってもリハビリの「リ」
ぐらいの状態なのでそんなに幅が広いわけ
ではないのだけど。



けど4・5月中に巣食ったネガティブな気持ち

はそんな早々に晴れてはくれなくて、大きな

進歩ではあるのだけど、環境が少し変わった

というぐらいの認識でしかなかった。





しかしオオサカンのリモートアルセナールの

ために少しだけ奮起して、無理矢理感は否め
なかったけどなんとか録音して「合奏に参加
した」。

後日公開された動画を見て、やはり人数を

重ねて曲を作っていくのは楽しいなと感じ
たし、早く対面で音を出したいなと思った。
そこで少し自分の中での音楽に対する関心が
少し戻ってきた。




そしてこれまた超個人的なことなのだけど、

ここからさらに関心・モチベーションを

上げてくれたのが「Bluetoothイヤホン」

の導入だった。






自分が欲しいと思ったスペック、価格、

その時手元にあったお金がたまたま合致

していて最近購入したのだけど、こいつが

とても良い。

音楽を聴くことを止めていた指が、あの曲も

この曲もと画面をなぞった。

音楽を聴くことに抵抗があった耳が積極的に

聴くようになった。

昔よく聴いていたプレイリストが、また

動き出した。錆びついていた歯車が再び

動き出すとは、まさにこのこと。




そしてつい最近の先週、遂にオオサカンで

対面での合奏を再開することができた。

ソーシャルディスタンスを踏まえた上での

演奏会を開催するための検証会、という名目
ではあったのだけど、アルセナールと
ホルストの第1組曲、そして宝島を実際に
距離を取ったうえでセッティングを組んで
合奏した。







ああ、対面で音を重ねるって、こんなにも

尊いものなんだなと思った。








誇張表現かもしれないが、それぐらいコロナ

で疲れ切っていた耳と脳には刺激的で、

新鮮な響きだった。

この2,3か月で恥ずかしいと自認するほど

いろいろ衰えたけれど、それでも

合奏の空間にいられたことが幸せだった。





まだ気持ちが以前のようにまで整っていって

はいないので、やはり楽器を吹くことが
億劫になってしまう日も、離れたくなる日も
まだある。でも今はこの傷痕に慣れて、早く
元に近い状態まで吹けるようになりたい!
という気持ちが強くある。音楽というのが
楽しいと感じる・感じ取れる気持ちが、少し
ずつではあるが戻ってきている気がする。

これが本来自分が持っている、いきいきと

した姿なのだろう。以前「楽器を恒常的に
吹いていないと死んでしまう」
と冗談めかしてTwitterで呟いたことが

あったが、まああながち間違ってはいない

のだろう。




春先でもらってしまった負の気持ちとうまく

付き合いながら、改めて音楽家を目指して

精進していきたいと思う。








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